骨がもろくなり、骨折リスクが高くなる疾患
骨粗しょう症は、老化などが原因となって骨の量が減少し、鬆(す)が入ったように骨がスカスカになり、もろくなって骨折リスクが高くなる疾患です。
骨に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル量(骨密度)は、20~30歳頃の若年期をピークに、年を重ねるとともに減少していきます。
この骨密度が減少することよって背骨が体の重みでつぶれる、背中が曲がる、日常的な転倒で骨折するといった事態を引き起こしがちになります。
骨粗しょう症になりやすい方
骨粗しょう症は女性が8割程度を占めており、特に高齢の方は年を重ねるごとに増加傾向にあります。女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下する更年期以降に特に多く見られます。
エストロゲンには、骨の新陳代謝に際して骨吸収を緩やかにし、骨からカルシウムが溶け出すのを抑制する働きがあります。閉経後、このエストロゲンの分泌量が減少してくると、骨吸収のスピードが速まるため、骨形成が追いつかず、骨がもろくなってしまうのです。50歳になる前に一度骨粗しょう症の精密検査を受けましょう。
一方で偏食や極端なダイエット、喫煙や過度の飲酒なども骨粗しょう症の原因と考えられており、最近は若い女性の骨粗しょう症も問題視されています。
FRAXで骨折のリスクを診断
FRAX(fracture risk assessment tool)はWHO(世界保健機関)が開発した「骨折リスク評価法」です。FRAXは40歳以上の方を対象にしており、この評価法を用いるとその人の今後10年間の骨折リスクの診断が可能になります。
WHOのページで12の質問に答えると、自分自身の10年以内に骨折する確率が自動的に算出されます。この数値は医療の現場でも薬物治療を始めるかどうかの判断に使われることがあります。
チェック項目の1つ「大腿骨頸部の骨密度」については、体格指数(BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))を入力しても判定が可能で、骨密度の測定を必要としないのも特徴です。
骨粗しょう症の検査
骨粗しょう症の診断には、骨密度の測定、X線検査、身長測定、血液・尿検査などが行われます。
骨密度の測定
骨の強さを判定する際の重要な尺度の1つに「骨密度」があります。
当院ではDXA(デキサ)法による骨密度の測定を行っております。
DXA法
骨密度を測定する検査のうち、最も主流を占めており、二種類の異なるエネルギーのX線を照射することによって骨量を測定します。当院のDXA法では、脊椎骨や大腿骨の部位で測定します。精度が高く迅速な測定が可能です。検査に要する時間は5~10分程度です。
X線検査
主に背骨(胸椎や腰椎)のX線写真を撮り、骨折や変形が無いか、また「骨粗しょう化」の有無(骨に鬆(す)が入ったようにスカスカになっていないか)を確認します。骨粗しょう症と他の疾患とを判別するのに必要な検査です。
身長測定
25歳の頃の身長と比べて、どのくらい縮んでいるかを調べます。25歳時より4cm以上低くなっている場合、それほど低くなっていない人と比べ、骨折する危険性が2倍以上高いという報告があります。
血液検査・尿検査
骨代謝マーカーを調べることにより、骨の新陳代謝の速度がわかります。骨吸収を示す骨代謝マーカーの高い人は骨密度の低下速度が速いため、骨密度の値にかかわらず、骨折の危険性が高くなっています。
骨粗しょう症の予防と治療
骨粗しょう症の原因のうち、年齢や性別、遺伝的な体質などは変えることができません。しかし変えることのできる要素、つまり食生活や運動などの生活習慣を見直すことにより、予防と改善が可能です。
食事療法
骨粗しょう症の治療や予防に必要な栄養素は、骨の主成分であるカルシウムやたんぱく質、および骨のリモデリング*に必要なビタミンD・Kなどです。
カルシウムは食品として700~800mg/日、ビタミンDは400~800IU/日、ビタミンKは250~300μg/日を摂取することが推奨されています。これらの栄養素を積極的に摂り、バランスの良い食生活を送ることが大切です。
避けるべき食品は特にありません。しかしリンやカフェイン、アルコールなどの摂り過ぎには注意する必要があります。アルコール摂取過多は、カルシウムの吸収を妨げたり、尿からのカルシウムの排泄量を増やしたりします。カフェインはカルシウムの排泄を促します。リンの摂り過ぎは、血液中のカルシウムとリンのバランスを保とうとして骨の中のカルシウムが血液中に放出されてしまい、骨密度の減少を招きます。
*リモデリング:骨を壊す「破骨細胞」が骨を吸収する一方で、骨を作る「骨芽細胞」が、破骨細胞によって吸収された部分に新しい骨を作る代謝作用のことをリモデリングと呼びます。
積極的に摂りたい栄養素を多く含む食品
- カルシウム……牛乳、チーズ、干しえび、しらす、ひじき、わかさぎ、いわしの丸干し、えんどう豆、小松菜、モロヘイヤ など
- たんぱく質……肉類、魚類、卵、乳製品、大豆 など
- ビタミンD……アンコウの肝、しらす干し、いわしの丸干し、すじこ、鮭、うなぎの蒲焼き、きくらげ、煮干し、干ししいたけ など
- ビタミンK……納豆、抹茶、パセリ、しそ、モロヘイヤ、春菊、おかひじき、小松菜、ほうれん草、菜の花、かいわれ大根、にら など
運動療法
骨は運動をして負荷をかけることで増え、しかも丈夫になります。さらに、筋肉を鍛えることで体をしっかり支えられるようになる、バランス感覚が良くなるといった効果があり、転倒防止にもつながるため、運動は骨粗しょう症の治療法として推奨されます。
骨量を増やすには、ウォーキングやエアロビクスなどの中程度の強度の運動が効果的です。激しい運動をする必要はありません。散歩などはできるだけ毎日が望ましいですが、週に数回でも十分ですので、長く続けることが重要です。
薬物療法
病状が進んだケースでは、食事療法や運動療法に併せて薬物療法を開始します。
現在使われている薬には下記のようなものがあります。
- 骨の吸収を抑える「骨吸収抑制剤」
- 骨の形成を助ける「骨形成促進剤」
- 骨の栄養素である各種ビタミン(D、K)
また、腰や背中などに痛みがある場合は、痛みを取るための薬も用いられます。薬の選び方や治療開始時期については、患者様の年齢や症状の進み具合などを考えながら医師が判断します。